「敵はくたびれ」をスローガンに農業経営を作ってきたことは何度か紹介している。そしてこの度の洪水で未来が見えなくなったことで、最近くたびれ始めているのではないかと睨んでいることを先月書いた。
しかし、くたびれの正体はまだあった。むしろこちらが本物。
少し前に、お世話になっている市の職員さんとあるイベントの打ち合わせをした。帰り際に席もすでに立って玄関までを歩く間の雑談で、行政の農業経営への支援について、欧米では経費補助が主流で日本もそうするべきではないかという話に何かの流れでなり、私は「文句なしでそうだ、収入補助は百害あって一利なしだ」と私の持論に乗せて当たり前のように言ったところ、彼が言った。「でも反田さんはこの度の収入保険では助かってませんか?」と。
この瞬間、私は凍り付いた。そうだったか、これだったかと。これがくたびれの本当の正体だった。今年は洪水に加え、7月の長雨によって多くの損害を出し収支は悲惨である。しかし昨年から国の肝いりで制度化した収入保険に加入したおかげで、例年の8割くらいまでの売り上げを保証されるのだ。こうなると少々頑張って残りの作物の管理をしたところで、今年の売り上げはほとんど変わらないということになって、頑張ろうという気が失せかねない。いや、きっと私はすでに失せているのだ。働かなくてもいいというささやきとは、こういうことだったかと。なんで気が付かなかったかなと。彼が帰った後、私は椅子に崩れ落ちて放心していた。
この出来事からすでに3週間くらいが経つ。この保険制度にどう向き合っていくのか、呑まれないためにはどういう心持ちで行くのか、私なりに整理してきたつもりだ。しかし収入補助は「麻薬」である。自覚症状を認識することすら難しいのである。実は今も、ちょっとした恐怖。
そろそろ落ち着いたかなと、書いてみようかなと書いたところ、怖さが戻ってきた。これは大変な魔物がいたものだ。しかし現実としてこの魔物を受けずに経営していくことは考えられない。いっそのこと魔物と同化するか。意味が分からなくなった。
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