土木の頃(3)
- 反田孝之
- 5月8日
- 読了時間: 2分
当地で名高い「観音滝」の手前2kmは2車線で道幅が広い。ここは私が26歳の時に現場代理人(現場責任者)として道を拡幅した場所だ。うちの会社始まって以来の1億円越えという大きな現場でもあり、多くの下請け業者が入る。そこでこれまでに書いたような人間模様が繰り広げられていたが、そこに発破屋さんがいた。
発破屋は、重機で崩せないような固い岩盤に穴を開け、そこに火薬を詰めて爆発させて岩に割れ目をいれるのが仕事だ。前からよく知っている人で、見かけはいかついし、血相を変えて誰かに怒鳴っているのを見たこともある。たぶん測量が早いという噂が立っていた私を試そうとしたのだろう。発破屋さんが言うには、「今度来た時に発破をかける。昼前にスプレーで赤い印を岩盤に数十カ所付けておくから、その印から真下に向かって法面の計画高までの距離をそれぞれの印の横に書いておいて欲しい。」と。そろそろ発破屋さんのために丁張をかけなければならないのだろうと思っていたのでそのつもりではいたが、なるほど、そうやるのかと。そしてさらに、「昼飯の間にやれとは言わないが、なるべく早くやってくれ。」と。当然私の心に火が付く。
(写真)
それから数日、どうやれば昼休みの1時間の間に素早くそれができるかどうかを考えた。道路はクロソイド曲線の部分だし、縦勾配もある。今の技術ならどうにでもなるのかもしれないが、当時はパソコンもまだそこまで普及していなくて関数電卓でほとんどすべて処理をする時代。しかしちょうどこの現場のために導入したパソコンと道路工事用のソフトがあった。いろんな機能はないものの、平面上の任意の点が道路中心線のどこに対応するかを瞬時に出すことはできた。道路の中心線のカギは10cm単位の精度でよいということ。これならいける。
その日の昼前、発破屋さんが赤い✖印を岩盤に付けていた。よく覚えていないが20か所以上はあったと思う。そして手元の高齢の従業員さんと測量開始。すべてを計り終えた後、休憩小屋へいったん戻りパソコンで計算、その結果とあらかじめ準備しておいたデータを抱えて現場へ戻り、電卓を叩きながらスプレーで数字を書いて回って完了。そのことを昼飯を食い終わって休憩していた発破屋さんに伝えに行ったら、当然ながら「もうやった?!」と驚いている。すぐに一緒に見に行って、数字を確認しながら「今までの測量屋の中であんたが一番早い。」と言ってもらった。
この発破屋さんは、私が農業を始めて間もない頃に一度電話をくれた。新聞で名前を見て懐かしくなったとわざわざ。今はどうしておられるだろう。
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