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執筆者の写真反田孝之

私の凄いところ

職人の修業というのは、まず己を知ることから始まる。自分はどういう人間で、何ができて、何ができないのか。そしてどんな努力をすることで、何ができるようになるのか。だから今でもこんな考え方がすっかり染みついている。


ところで、私の農業人生は持ち上げられることが少なくない。しかし多くの人の評価はずれていると言わざるを得ない。敢えて言う。確かに私は凄い。しかし凄いのは作物の栽培技術や思想や哲学などではなくて、「経営の手腕」と、もう一つ「体の使い方」だ。これらには強烈な自負がある。


経営の手腕などというと剛腕的な響きを感じられるかもしれない。しかしそうではなくて、洪水にたびたび遭いながら、除草剤という生産の切り札を使うことなく、16haという中規模の経営を「なんとかかんとか継続している」ということである。もっとも比較の対象がないので妥当性は微妙。しかし同じような境遇でこんなふうにやれる人は、滅多にいないだろうと思っている。


もう一つの体の使い方というのは、何のことかと思われるだろう。これは、ガリガリに痩せてつま楊枝のような体で、これだけのことをやれているということである。だから普通の体格を持った多くの人には関係のない、どうでもいいネタに過ぎない。しかし私にとっては根源的なネタだ。この体格で体を使った現場仕事をしたければよっぽど体の使い方を洗練しなければならない、と悟ったのは20代の始め。こんな年齢で強く悟り、ずっと(今でも)工夫をし続けているというのは、なかなかできることではない。


ちなみに、「そんな華奢な体でよくこれだけのことがことができますね。壮絶な工夫があるのでしょう。凄い方ですね。」のようなことを言われたことは、もちろん一度もない。


珍しくやたらと自分を持ち上げてみたが、多くの人にはどうでもいいような、ピンとこないような、このたった2点のことでは、私は評価されてもいいのではないか。そのことを言いたかった(笑)。

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