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香西さんとのこと

  • 執筆者の写真: 反田孝之
    反田孝之
  • 4月11日
  • 読了時間: 3分

更新日:4 日前

先月初めに、私の農業修業時代の社長さんが亡くなられた。香西さんという。最後にお会いしたのは7年前。ただその時にはすでに病気をされていたので、私のことを思い出してはもらえなかった。


研修期間はわずか7か月だったが、私の人生の中である意味一番濃い日々だった。出会いは27歳のとき。農業人生を志し、家業の土木業をやめ、偶然に新聞で見かけた3週間のイベント「弥栄農芸学校」に参加した。そこに香西さんのところのスタッフが岡山からたまたま遊びに来て、農芸学校が終ったら研修に来ればと言ってくれる。それで面接に行ったという成り行きだった。


研修で何が学びになったかといえば、何といっても香西さんとの会話だ。作業が終わるのが午後7時8時。それから9時10時まで、電球のないプレハブ事務所でお互いの顔が見えなくなっても毎日話し込んだ。私は勉強になるし、香西さんはそうやって私と話すのが楽しかったらしい、とは後に奥さんから聞いたことだ。連日のことの上に香西さんは酔っぱらっているもんだから、同じ話をもう何回聞いたかわからない。しかもその内容がとても興味く、補助金目当で方針を決めてはならない、単価の低い作物を選べ、農産加工に手を出すな、怖いのは「くたびれ」、などはその典型で、すっかり刷り込まれて沁みついてしまった。この「座学」によって今の私の経営哲学ははぐくまれたと思っている。


香西さんにしかできないなあと今思うことに、「農業を始めたけど苦労していたりすでに失敗した人を訪ねて回ろう」と、突撃訪問で関西の農家を3拍4日で巡ったということがある。経営が上手く行かないパターンを私に肌感覚で伝えてくれようとしたのだ。そのパターンがさっき典型と書いた内容だ。これで私の身に染みないわけがない。


そんな恩を受けながら、一方で農作業が過酷だったり、知り合いもまったくいない土地だったりで、私も気持ちが不安定になり、生意気にも香西さんに反目したりしたこともあった。一番やらかしたのはこんなこと。連日の猛暑の8月に「今度雨が降ったら休みにしよう」と香西さんが言う。その時の私の作業はほぼ100%人参畑の草削り。早朝から日暮れまで毎日猛暑の草削り。這いつくばっての草削り。何日経っても予報では雨は降る気配すらもない。だんだん気持ちがおかしくなってきて、3週間たった時に爆発。ある日無断で仕事を休んだ。次の日は何食わぬ顔で出社し、香西さんもいつも通り。振り返って、本当に貴重な体験をさせてもらったと思う。この体験がなければ今のゴボウトンネルの草取りマラソンの発想がなかったことは間違いなく、はんだ牛蒡は世に生まれなかったと確信する。


研修をやめる時に、「スーパー研修生」と銘打った賞状をくれた。「君ができなければ日本中の誰にも農業はできない」とまで。厳しい時はその言葉を思い出してやってきた。


その後、千葉県での自己研修を経て今の農業を始める時も、始めた後も、訪問したり電話したりして散々相談に乗ってもらった。その頃の香西さん54歳、ちょうど今の私の歳である。ゼロから有機人参栽培を始められて、私が研修したころが黎明期、その後拡大を続け、年間200トンも生産できるようにまで大きくされた頃だった。


出会いはまったくの偶然だったが、香西さんのところで研修をして良かったとつくづく思う。もし出会いがなくても、きっと農業はしていることだろうが、どんな経営になっているのか想像がつかない。そのくらい学んだことは大きかった。


私の農業人生の土台を作ってくれた人が次々と亡くなられる。私も独り立ちしなければならない。




(2009年7月、(有)吉備路オーガニックワーク事務所にて)


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