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K君の慰霊登山

執筆者の写真: 反田孝之反田孝之

次男との山行のように、昨年はいつもより山ネタが多いのだ。夏(7月28日)に長男と行った、K君の慰霊登山のことにも触れてみたい。


K君は4年前に大山山系の甲川で遭難死した。そのときに彼がたどったルート、すなわち甲川付近~大休峠~矢筈ヶ山~甲ヶ山~甲川の周遊コースを歩いてみたのである。彼がどうして道に迷い、死へ追い詰められたのか。その理由が分かるのではないだろうかと。


大休峠までの道のりは昔の参道というだけのことはあって快適そのもの。しかしそこから矢筈ヶ山~甲ヶ山~甲川までが、私の登山史上最悪と言ってもいいほどの不快感をともなって、難儀を極めた。


まずブッシュがひどい。踏みしめられた登山道ではあるものの、両側から藪というより灌木の張り出しがひどく、露で服はびしょびしょ、登山者同士がすれ違うのも困難な箇所だらけ。もちろん展望などありはしない。あげく季節が悪かった。常にアブが数匹まとわりついて来て鬱陶しくてたまらない。当然、暑い。何のための登山かと、もしこれがただの登山であれば恨めしくてならないことだ。




甲ヶ山に近くなるとようやく藪から解放されて開放的なルートになった。しかし登山道というには歩行技術もルートファインディングも明らかに中級者以上向け。せめて晴れていれば気持ちが違ったはずだが、天気予報にたがえてこの日はなかなかガスが晴れない。甲ヶ山山頂では息子はすでに滅入り気味だ。


(甲ヶ山直下)


甲ヶ山を過ぎれば有名なゴジラの背。もともと猿の私にはなんて事がないが、人によっては大変な難ルートだろう。高所が苦手な息子もそれなりに大変だったようだ。


(ゴジラの背)



そしてK君が同僚らと分かれた分岐点へ来た。登山口の車を回収するために彼一人がここから下って行ったのだ。ここで昼飯のラーメンを、相変わらずアブの群れに悩まされながら煮て食べたあと、下りにかかる。


(この間もアブの攻撃が凄まじい)


ここからは予想した通りで、標高差や勾配だけでなく、道自体が悪い。息子も、膝の悪い私も足がガクガク。甲川に降り立った時には2人ともへたり込んでしまった。


ここまで来てようやく、最大の謎だった、彼がなぜ対岸の登山道ではなく川を下って行ったのかが、分かった気がした。対岸の登山道はリボンテープがあちこちに巻き付けてあり、あまりに分かりやすい。ならば彼は、今下った400mの急降下中におそらく道を違えたのだ。そうなり兼ねない箇所が降下中にも確認された。それでおそらく正規の降下方向より右側に、つまり甲川のこの地点よりも下流側に出くわした。


(甲川との交差点から上流方面を見る。写真は拝借)

そして悪かったことに、彼はその時、今の私らと同様に、かなり疲弊していたことだろう。季節が我々と違って涼しい10月下旬だったということを差し引いても、このたびこのルートを歩いてみて、そのことを確信する。そしてこのたびのルートは想像していたのとはまったく違って私が面食らったように、彼らも同様だったのではないか。さらに彼以外の3~4人のうち1人が負傷し、みんなで(後醍醐天皇で有名な)船上山方向へ下っていることを考えれば、この難儀なルートが故のトラブルが発生していたのかもしれず、そうなると彼に焦りのような事情もあったと考えられないか。




ここからは、彼が下ったこの川を、彼の発見現場とまではいかなくても、いくらかたどってみるつもりでいた。しかし足の疲労が厳しく、天気予報が強い夕立を報じている通りで大山方面からの雷の音がかまびすしい。仕方なく諦めて甲川を後にした。


彼が逝って間もなくして私は膝を痛め、子供らとの山行以外は極力控えようというブレーキをかけていた。しかしこの翌年、息子と大山にだって登ったのだし、いくらなんでももう少し早くに訪れるべきだった。遠くないうちに、逆回りでもう一度登山道と甲川との合流地点を訪ね、そこから甲川を無理のない範囲でいくらか下ってみようと考えている。

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