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土木の頃(4)

  • 執筆者の写真: 反田孝之
    反田孝之
  • 5月9日
  • 読了時間: 3分

業者さんとの人間関係はこんな感じで何とかなった。むしろ大変なのは内部、従業員さんの方だった。私自身が仕事を覚えること以外に、とにかく会社の雰囲気を良くしたいという一念で日々を過ごしていたが、上手く行かないことが多くて面食らっていた。


例えばこんなことがある。当時社員は全部で18人で、そのうち管理者(現場監督になる人)が社長(親父)を含めて6名。つまり1つの現場が1~4人くらいの規模になるわけだ。管理者は自分の現場に有能な人が来て欲しいので、人の取り合いになる。しかし私は会社全体の利益や雰囲気を考える立場だから、どちらかというと他の現場を優先することになる。それで(今だから言えるが)私の現場には他の管理者や世話役が欲しがらなかった人たちが集まる傾向にあった。その人たちが欲しがられないのは、仕事が遅い、下手、扱いにくい、などの評価をされているからである。しかし私にとっては貴重なスタッフさんたちだ。


この状況下で一部の人の思惑が渦巻き、陰でいろんな吹聴がなされた。私の現場にこういう人ばかりが集まるのは、私の気が弱くて取り合いの駆け引きに勝てないからだとか、私の現場に呼ばれた者は低評価だとか、私には人を見る目がないから仕事のできない人を引っ張るのだ、などというものである。


このことはいろいろな不具合を生んだ。本気で私が気が弱いと思って接して来るので無用な対応を強いられるのはまあいい方で、仕事の出来る人が私の現場に呼ばれてふてくされてしまったり、つまらぬ理由で言うことを聞いてもらえなかったりしたこともあった。社長に相談しても、収まるのを待つしかないと。


そしてついに歓迎できないことが起こった。皆が酔っ払った忘年会の席上で、いつも行き場がなくて私の現場に来ている人が私に絡みだした。日ごろから私に対して不満が溜まっているとのこと。しかし人の取り合いの事情を知ればズレていると言わざるを得ないようなことばかりで、あまりにしつこさについに私も短気を起こしてそっけないあしらい方をしてしまった。すると私に組み付いてきて乱闘に。私は左肩を脱臼してしまった。


後日、社長が「誰もお前を使いたがらないから息子が使ってやってたんだ。」というようなことを伝え、解雇となった。その日までずっと私の現場で精いっぱいやってくれて、最後に涙目で私に謝られて去って行かれた。社長も私も、続けてもらっても何も問題はなかった。しかし「誰も使いたがらない」という事実を伝えたからには、続けてもらうことは酷だった。


その後まもなく、私は兼ねての予定通り、退社して農業修行の道に入った。その時にいろいろな噂が立って、社長が喧嘩両成敗にしたというのもその一つ。まあさすがにこんなネタはどうでもよいが、他の噂で両親に大変な迷惑をかけたことを今でも大変申し訳なく思う。当時の親父、53歳。今の私より若い。また時々帰って来た時に従業員さんらと話す機会もあって、ある方は、私がいなくなってすっかり雰囲気が変わってしまったとぼやかれていた。雰囲気を良くしようと尽力していたことが無駄ではなかったことを知った。


この6年後に農業修行を終えて戻ってきて、会社の中に農業部を作った。そしてさらに6年後、土木部は廃止した。今はそれから15年。当時の従業員さんの多くはこの世を去られている。

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